路上は超芸術の博物館?!赤瀬川原平他「路上觀察學入門」

***
内容(「BOOK」データベースより)
マンホール、エントツ、看板、ハリガミ、建物のカケラ…。路上から観察できるすべてのものを対象とした〈路上観察学〉。その旗印の下に都市のフィールド・ワーカーたちが集まって、隠された街の表情を発見する喜びとその方法をご披露する。街歩きが好きな人には、欠かせない、路上観察マニュアル。

***

古い建物や街道を眺めながら歩くのが好きな僕には最高に面白い本だった。NHKのブラタモリは、この系譜なんだろうなと思った。

フィールド・ワークというと、まじめにテーマを持って役に立つ分析をするものという印象を持つが、赤瀬川さんたちのフィールド・ワークは興味赴くままで半ば遊びである。ひたすらマンホールをスケッチしたものや、消えゆく赤坂の古い町にあった煙突に命がけで登っててっぺんからいまでいうセルフィーを撮ったものや、女子高生の制服スケッチ、破壊された建物のかけら集め、街角にいる動物たちの生態觀察記録などなど。とても趣味的なのに、時代がたった今、どれも貴重な町の記録である。

トマソンという概念自体がおもしろい。「赤瀬川原平らの発見による芸術上の概念。不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物。存在がまるで芸術のようでありながら、その役にたたなさ・非実用において芸術よりももっと芸術らしい物を「超芸術」と呼び、その中でも不動産に属するものをトマソンと呼ぶ」(Wikipediaより)

そういえば、読んでいて共感を覚えたのは、僕はどうやら知人に言わせると道路を蛇行するようにあっちこっちよりながらぐにゃぐにゃと歩く癖があるようだが、この本よればそれが一番觀察に適してる。そしてそれは、著者のひとりが近所の放し飼いの犬の後をつけて歩いて気づいている。そうすると、見逃しが少ないのだという。

土地に隠れている面白いものを探すには、純粋な好奇心によるおもしろい!が必要なのだ。著者のひとりである歯医者さんが、廃屋の瓦礫を集める趣味は決して本業の歯医者業に影響を及ぼすものであってはならない、と言いながらやっているのが納得だった。あくまで、趣味的であるからこそ、他人の目を気にせずつきねけた面白さが見えてくるものだろう。ウケ狙いで探しに行っても、なかなかみえてこないしそういう情報は雑誌なんかにあったりするのだ。

あと、文中でも言及されている、他人にやってもらったり大人数のプロジェクトになるととたんに面白みがなくなる、という指摘も興味深かった。昨今、クリエイティブなリサーチは、創りだす人が自分でもやるものという考え方がデザイン思考を始めに言われてきているので、ここでもやはり自分ごと、楽しんでフィールドに潜り込んでいくことが大事なんだよなと思わされた。

イギリスにいた時に読んだ「Phychogeography」なる、土地と人の関係を記した本も同様に町に隠されたおもしろきものに着眼するという点では同様である。古い港町には、そんな超芸術的な名残がたくさんあって発見が楽しかったものだ。

普段、目的地まで一目散に歩く道、自転車や車で高速で移動する町中、それぞれの箇所で少し立ち止まって眺めてみるとほんとは町は面白いものに溢れている。気忙しすぎて、ただ見ていないだけだったりするのである。

ちなみに、この本は伊豆フォトミュージアムのギャラリーライブラリーで見つけて買った。さすがの選書センス。

関連記事

デザインリサーチの道具 / My tools for design research

デザインリサーチという調査の仕方がある。 このデザインという言葉が、一昔前のグラフィックやプロ

記事を読む

猫のやんまーをインドの獣医に連れて行きました。信頼できる口コミについて考えたこと。

猫のやんまーが生後3ヶ月たった(推定)ので、狂犬病の注射のために獣医に行きました。 命

記事を読む

西原理恵子の「あなたがいたから」

今回は、コースワークから離れて、漫画家の西原理恵子さんのことを書いてみます。西原さんからは仕事や家族

記事を読む

「知る」「信じる」「感じる」とは。加藤周一さんの議論を振り返って。

日本に帰国する前後、科学の世界では世紀の大発見というSTAP細胞に関するニュースが出た。その後、プ

記事を読む

ドキュメンタリーリサーチ / Research for documentary

大学院のコースには実にさまざまな経歴の人が在籍しています。 そんなひとりにBBCの敏腕プロデューサー

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ブログ引越

こちらにブログを統合しようと思います。 引き続きよろしくお願いいたし

銀杏@目黒不動尊

いつもと違うカメラで撮影すると、やはりものの見え方も変わりま

星薬科大学裏門付近の桜

名所の桜も美しいけど、意外と近くにも立派なのがある。作家星新一の父

桜の名所は近所にもある。旧中原街道の桜

日本は自分の生活圏内に桜があってうれしい。 確かに桜の名

目黒不動尊の桜2016年

ソメイヨシノより2週ほど早く咲いていた。 目黒不動は80

→もっと見る

  • RSS フィード

PAGE TOP ↑