ここまでのコース振り返り
公開日:
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最終更新日:2014/07/31
ロンドン芸大 / Uni Arts London Course work
秋学期が終了に近づいたので、学期の振り返りしたいと思います。
まず、改めて僕の通っているコースについてですが、ABC Diploma in PhotographyというこれからPhotographyの世界に入っていくために必要な基礎スキルと知識を学ぶ1年コースです。
学生は全部でたぶん90人くらい。今年でこのコースがクローズドになるため入学延期がないため例年より人数が増えてしまっているようです。さすがにこの人数では できないので、4クラスが編成されています。25人程度で学んでいるのが実情。ちょっと多すぎて全ての学生と知り合うのは難しいです。年齢層もさまざまで 19~50歳くらいまでの方がいます。ただ割合を見るとこれから学部へ上がろうとする19歳が3分の1、一度他の学部を経てが1、その他が1というと ころでしょうか。中にはOxfordやCambridgeを終えてから来ている学生や大学講師なんていう人もいます。
自分の計画では、基礎とその応用に最低2年ほしいと考えています。
そこで考えたのが、この基礎コースでの実技・知識習得を経て、MAコースへジャンプすることです。それほど簡単なことではないと思うので、アドバイスと自己管理を重視してコースで学んでいます。
学ぶ内容は下記のようなものが決められています。
Photographic project planning, implementation and review(フォトグラフィックプロジェクトの計画、実行、評価) 16
一ヶ月に最低一本課題が出ます。ここまでは、River Thames, Street Fashion, Forgottenというテーマが出されました。
これはただ写真を撮ればいいだけではなく、計画書の記載とレビューが求められます。
そのプロセスは、かつてやっていた社会科学の研究を思い出させます。
課題をどう解釈したのか、どういう方法を採用したのか、何を撮ろうとしていたのか、最終的にはなぜそれを撮ったのか、アウトプットに対する反省といったプロセスです。
提出後は、大きな教室で一枚一枚先生方から講評があります。
結構、辛口です。写真が難しいなあと思ったことは、かなりの部分、感性に依存するところ。
だから、余計に、技術的な内容と感性のポイントを分けて見る必要があるのだと感じています。
簡単にすまそうと思えば、どれだけでも簡単にできてしまうのが写真の特徴かもしれません。
ただ、やっぱりそういうときは底の深さ、浅さが出てしまいます。先生方も自分の作品をWEBなどで公表しているなか、批評するわけですから、ある意味タフな仕事です。
中には、「オレの作品を批判しやがって、でもあの先生の写真なんてたいしたことないんだぜ」、と言っている学生もいます。
僕の中では、その写真から小さな物語が生まれそうな作品は、好きだなあと考えています。
Context and history of photography(フォトグラフィーの文脈と歴史) 8
この授業は、かなり期待はずれな感じです。
僕はいわゆるイントロとしての写真近現代史を抑えたかったのですが、まともにやったのはアイコニックな写真の定義と実際くらいで、あとは卒業生や業界人がゲストでやってきて仕事ぶりについて話す会になっています。
まあコネクションを作るにはいいのかもしれませんが、シラバスと違うくないかと思うところです。
ただ、この分野は自習可能なので、同じ大学にいるMAコースの教授が推薦している本を数冊購入して学んでいます。とてもいいのは、基礎的なテキストを読み ながら図書館に写真集が大量にあることです。ユージン・スミスの仕事について出てくれば、どれどれと席を離れて数冊持ってくることができます。
おまけに美術館や個展だって町にはたくさんあるのです。
社会人を経てきた学生は、学校にあまり多くを求めすぎてはいけないのだとわかっているので、地道にやっていくだけです。でも、この分野の勉強は非常に面白い。
ちなみにこのクラスは、最後に卒論のようなレポート提出が課せられています。テーマは、三人の写真家を選んで時代背景(社会、技術)の分析と写真への影響についてです。
Photographic darkroom skills(暗室技法) 8
暗室実習は、暗闇の中での作業実習です。
この時間がもっとも楽しい。
暗室作業というのは、フィルムを現像したり、現像したフィルムから写真紙に焼き付けて写真にする作業のことをいいます。
人数の問題もあり、隔週でモノクロとカラーを交互に学んでいます。
ただ、進捗が非常に遅いのがちょっと不満ですね。本来であれば、2日くらいでできることを長々とやっています。ですので、ここも薬剤の調合を学んだらあとは自分で空き時間を使って作業するのがいいです。
Digital photo imaging techniques(デジタルフォトイメージ技法) 8
Pixel-based image manipulation(ピクセルベースのイメージ加工法) 8
このふたつはアドビのPhotoshopやBridgeを使って写真の加工や仕上げをやっていきます。毎回宿題がでます。先生は二人でそれぞれとても教え 方が上手。たぶん、お一人は60代の方ですがエキスパートです。先入観でこういう世界は若い人かと思ってましたが、そんなことないんですね。
課題の特徴としては、プロセスを提出させることです。プロセスごとにフォルダを分けて正しい手順を踏んでいますよという点が評価されます。
直近のクリスマス休暇中の課題は、1~9の数字をイメージさせる被写体をRAWモードで撮影して、加工プロセス編で習ったフォルダー階層を作り、数字順に並べ、バッチでファイル名を変更。一覧モードのファイル作成と最終はTiffファイルにするといったものでした。
Exploring photographic imaging(フォトグラフィックイメージの探索) 8
Presenting photographic images(フォトグラフィックイメージの発表方法) 8
この2つも実際はひとつのような気がしています。
大判や中判、スタジオライトの設定、フラッシュの活用、ゾーンについてなどなど。
座学中心ですね。写真というのは、かなり数学的なバックグラウンドがあって、いくつかの変数間の相関関係で成り立っていることがわかります。
アート系の学生は、やっぱ感性だよ!と言う人もいますが、僕は結構そういう理論的な背景も理解しておいたほうが最終的には幅が広がるんじゃないかと思います。
講師のひとりは学部を数学専攻後、写真の世界にきたです。
あと、写真は道具じゃないよ、というのもよく聞きます。
でも、ものごと0と1の世界ではないわけで、ある程度は道具によるところもあり、そうでないところもあるというだけのことです。
English support class
留学生のためのエッセイライティング指導です。
コースの宿題や次のコースへのアプライステートメントを見てくれます。写真コースのためみんな語学にはあんまり関心がないようで、今は僕とロシア人、フランス人の3人しか出席していません。
なので、ほとんどマンツーマンで作文を見てもらえます。
なんだかんだいって、この分野でちゃんとした英作文なんてしたことがないので助かります。ベテランの女性教師も熱心に助けてくれます。
研究日誌の付け方からはじまって、いまはこれまででできのよかったエッセイを見せてもらってストラクチャーや使っている文章を学びながら、自分の文章を書いています。
僕は、そんなに英語が得意ではないので、このクラスはなかなか助かっています。会社の仕事でなんとかなるのと、ネイティブの世界で対等に扱ってもらうのでは全く意味が違うのです。そういうことがわかるということは来てよかったと思える点です。
こうやって自分の振り返りも含めて各クラスについてまとめてみましたが、実際のクラスは月、水、金に朝から夕方まで行われます。
なので、火、木は習ったことを実践する曜日としてあけてあります。
多くの学生は、暗室やスタジオワークを行います。
暗室やスタジオワークは楽しいです。
特にスタジオにモデルをよんで撮るのは、ライトの調整が上手くできればかなり美しい写真がとれます。また、ライトの設定は知識と実践のコンビネーションなので、やらずしては身につかないです。
僕も、ここまで5回ほどスタジオを使いました。ただ、最近は少し控えています。中だけでなく、外での光のコントロールについて学ぶ時間を増やさないとと思っています。
あと、Contextや歴史学習と実際にギャラリーを訪ねることを重視して過ごしています。もちろん、その合間に小説を読んだりコンセプトをまとめたりという思考を深める方に軸を置いています。
あとは、実際に撮影に出て特にモノクロ写真で撮って、何が撮りたかったのかやそれができているかをレビューしています。
学期の最後にはチュートリアルという担任教師との20分面談があります。ここで今の進捗や悩み、この先の進学や職業について相談します。チューターは4人から選ぶことが出来て、ぼくはコースディレクターの最年長の方を選びました。この人、とっても話しやすいしいつもすぐ相談に応じてくれます。
学生にはコースブックという学んだことを日記のようにまとめるタスクもありますので、そこに実行したものや見た個展、感じたこと、気に入った写真の切り抜きなどなどいれこんでいきます。そういうのを持って行って、話すのだそうです。僕の第一回は今週金曜日です。
勉強が大変かといわれれば、アカデミックな勉強とは違いただコースを修了することは難しくないでしょう。
ただ、違った意味での難しさがあります。特に、知識を積み上げることに大きな価値がないので、自分の思いや主張を表現するのに必要な知識や技術を集めて実践することが重要でしょう。
あと、ビジネス分野のように学んだり卒業したら一定の価値がつく世界とは違うので、生活を組み立てる見通しを持っていかなければならないという点はシビアだと思います。
自分の表現の源泉には何があるのか、それを表現するのに必要な知識は何か、時間と設備を有効活用するという点では、写真学科での勉強はなかなか大変じゃないかというのが感想です。
ただ、すべてが新鮮ですっごく面白い。
この記事へのコメント
1. Posted by やすうし 2011年11月23日 00:14おもろいねー、今度深く教えてください。2. Posted by shin 2011年11月23日 06:39>やすうしさん異文化・異分野体験です。
また今度語りましょう!3. Posted by いなば 2011年11月24日 12:40勉強しているようで楽しそう!うらやましい!表現者自体の世界観とか広さとか深さ(+性格:あたたかさ、やさしさ・・)というのが表現では土台になると思うんですよね。
その基礎工事がベースにあって、その通路として技術がある。
だから技術がないと、内側のものは反響してこだまして自分の内的体験で終わっちゃう。自分の内側の深さと広さに相当するような、通路の幅が必要になって、それが表に出てくる作品になる。
こんな感じに思ってます。だから、写真の勉強と共に自分を磨く勉強も頑張ってください!楽しみにしてまーす。小林秀雄「人生について」中公文庫(1978) のなかに、こういう一節がありました。
『私の人生観』より
「絵は、そういう糸口を通じて、諸君に、諸君は未だいっぺんも海や薔薇をほんとうに見たこともないのだ、と断言しているはずであります。私は美学という一種の夢を言っているのではない。諸君の目の前にある絵は実際には、諸君の知覚の根本的革命を迫っているのであります。」
「べルクソンは、拡大された知覚は、知覚と呼ぶよりむしろVisionと呼ぶべきものだというのです。見るものと見られるものとの対立を突破して、かよう な対立を生む源に推参しようとする能力である。・・・これを日本語にすれば、心眼とか観という言葉が、まずそれに近いと思います。」
「画は見る人の前に現存していれば足りるのだ。美は人を沈黙させます。」4. Posted by Shin 2011年11月26日 03:51「表現者自体の世界観とか広さとか深さ(+性格:あたたかさ、やさしさ・・)というのが表現では土台になると思うんですよね。
その基礎工事がベースにあって、その通路として技術がある。
だから技術がないと、内側のものは反響してこだまして自分の内的体験で終わっちゃう。自分の内側の深さと広さに相当するような、通路の幅が必要になって、それが表に出てくる作品になる。」すてきなメッセージありがとう!
ほんとにそう思います。
写真イメージっていくらでもすばやく消費されてしまいがち。しかし、ほんとにすごい作品というのは、その背景に強いメッセージを秘めていて、そのメッセージを暗喩したり置き換えたりしてる。そして、それを見たり読 んだりして、心が動いて、心が動いたら生活が少し変わって、ゆくゆくは仕事や人生自体まで変えてしまう力があるんじゃないかと自分の体験を振り返っても思 います。
もうひとつは、村上春樹もインタビューで、人に何かを飲み込ませるには、とびきり親切である必要がある、ということを言っています。
分かる人だけにわかるというのはもったいないと思うので、見る人によって理解の段階や楽しみ方は変わるけど、伝わるというのが目指すべき方向性です。
精進します。
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