留学中の私の部屋。突然の別れ

公開日: : UK

Memory of Waterloo

最高の部屋をSNSという今風のアプローチで見つけ、順調にはじまったロンドン生活。
美しいレンガ造りで10畳くらいあって広さは十分だし、中庭の見晴らしはいい、大学まで徒歩10分、駅まで徒歩3分と最高でした。

しかし、恋と一緒で(笑)終わりの日は突然やってきました。
しかも、世間がクリスマスムード一色になった12月にです。

その日、朝9時のフライトで僕はベルリンへ向かう予定でした。12月はベルリン、ギリシャと周る予定でうきうきした気分で最後のパッキングを終えようとしていました。

ドンドン。
そのとき、誰かがドアを軽く叩く音がしたのです。

それなりに忙しいタイミングだったので、気のせいだと思うことにしました。
実際、3階の玄関に来る前に集合玄関のチャイムを押さないと通れないようになっているため、いきなり本丸前のドアが叩かれることなどないわけですし。

しかし、それから一分たたないうちに、今度は集合玄関のインターフォンが鳴りました。宅配かもしれないと思って、インターフォンをとったところ、「新しい家主だがお宅を拝見しにきた。開けてください」という。

ちょっと嫌な予感はした。それというのも、その前の週に大家が管理会社が変わって内見が入るから、その時間は外に行っておいて欲しいと言われたから。でも、その内見は無事に終わったと聞いていました。

彼らは再び3階にあがって来ました。
扉をしぶしぶ開けると、でっかい男が二人、社員証と書類を広げて中に入ることを半ば強引に求めていました。

先頭は長身痩身のスーツ着用英国紳士、もう一人はややぽっちゃりの大柄男。こちらはややラフな格好でカメラを手にしています。

あと15分で空港へ向かわないと間に合わなくなるタイミングだったので、出なおしてほしいといいましたが、少し開いた扉をぐいっと開けて入って来ました。

とても高圧的。
強盗ならともかく、対等なオーナーとクライアントの間ならこういうのって許せないところですが、なにせ僕は旅行へ行く直前で慌てているし、事情はいまいちわかっていないしで、はじめっからもう「逃げたい」モードでした。

土足で入ってくるなり、契約書を出せ、キッチンの掃除当番票の写真を撮る、他のフラットメートの部屋を開けて入るなどなど好き勝手していきました。
どうでもいいけど、あと5分で帰ってねといいながら、一応中を見せました。
「あなたの貸主に又貸しの容疑があって、実際こうしてみるとそのようだ」「我々新しい管理会社は、又貸しを許可しない」といいました。

あーあ、そうですか。それはもう仕方ない、と内心思いました。

だってここには大家は住んでいないし、国籍の違う人達がばらばらと住んでいるわけですから完璧なシェアハウスです。
それよりも心はもう旅行へいっているわけで、いっときも早く早く帰ってほしいと願うばかりでした。

飛行機乗り過ごしたら責任とってくれるんですか?と少し強気に出て、後は大家の責任だからそちらへかけあってほしいと言って、なんとか帰ってもらいました。

大男二人は何の躊躇もなく、韓国の女の子たちの部屋も開けていきました。
「ここには誰が住んでいるのか?」と聴かれても、「あんまり立ち入ったことは知らない」と答えました。まるで不法入国者のアジトで捕まった犯人がいうようなセリフですね。
彼女たちは既に大学に行っていなかったからよかったものの、自分たちがお互いを尊重して鍵がなくても手を触れない領域があっさり破られてしまったことが少しショックでした。

せっかくの旅立ちの朝が台無し。
もしかしたら、その後部屋が強制撤去にになる可能性もあると思って、残り5分で僕がしたことは、失ってはいけないものを旅に持っていくことでした。

銀行系の書類、パソコン、レンズ類をとりあえずバックパックに詰め込めるだけ詰めました。
パソコンなんか旅に持って行きたくなかったのですが、おかげでもうめちゃくちゃ重くて、空港へのバスで気持ち悪くなってしまったくらい。

とりあえず、大家に現状報告をしなければと、日本サラリーマンの鉄則(?)ホウレンソウをしておくことにしました。
大家は韓国人のキムさんという30代の男性です。

電話をとるなり、「へーい。元気かい?!」といつものお気楽な感じです。
事情を話すと、「実はさっき連絡があって、1月9日までに全員退去になってしまったよ~。悪い。でも、俺がなんとか探しておくから心配するな」って感じでした。

まあ、悪くない性格です。
しかし、せっかくの朝を非常に慌ただしくされたし、変に緊張したし、荷物は糞重くて気分悪くなったし、いくらかむかつきました。

それと同時に、こういうときに探してくれる物件って、大体あてにならないもんだよなあという直感がありました。やれやれ、たいへんな年末になりそうだという予感。

でも、今日から旅行だし、今じたばたしてもなんにもならないので、空港についたら全て一旦忘れることにしました。

案の定、ベルリンについて、ベルリン・フィルの感動的な演奏を聴いて、友達と話をしたら全部忘れてしまいました・笑

変えられない過去には執着せず、今を生きる。大げさか。

とはいうものの、ロンドンに戻っても実際部屋探しをできるのは数日しかないので、せっかくもってきたパソコンでベルリンでもできるだけのリサーチをしておきました。
きっと今頃、エッセイの課題が多いから帰国せずに年を越すと言っていたコリアンガールたちも大騒ぎしているだろうなあと思いながら。
いいフラットだよね、最高だよね、とお互いに言っていたところをもうすぐ出て行かないといけないなんて。
これも留学の醍醐味っちゃ醍醐味ですね。すべての環境が手厚く守られていた会社員時代とは違うのです。

この後、たった一日限定の部屋探しが待っているのでした。

★教訓:サブレット物件(又貸し物件):サブレットはロンドンではよくあると思いますが、こういった自体も起こり得ることを認識しておいた方がよいです。 サブレットかどうかを見分けるのは時に難しいですが、大家が同居していない場合は一言契約のときに尋ねておいたほうがよいかもしれません。

写真:からっぽになったお気に入りの部屋。

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