NHKクローズアップ現代「広がる”読書ゼロ”」を見て思ったこと。総合メディアの知情意とは。
NHKのクローズアップ現代「広がる読書ゼロ」を興味深く見ました。
このトピック、番組側の課題設定と、評論家立花隆さんの考察がいい意味で違っていて面白かったといえます。
番組の半分くらいを読書しない若者がこんなに増えて、よくないことが起きるのではないかという仮説のもと、実際にレポート作成能力が落ちているという実験結果を示します。
ですが、評論家の立花隆さんをスタジオに迎えてのやり取りの中で、これらの仮説は若者をばかにする見方につながり実際には優秀な学生がいるのを知っている。また、脳の働きに関するところは個人差が大きい点を、指摘し議論のスコープを広げます。
私が、さすが立花さんだなと思ったのは、次の二点に収束させながら論じたところです。
一つ目は、「インターネット経由で人類の知識の総体にアクセスできる、今は。本の持つ社会的機能が変わった」という情報の引き出し方の変化が起きただけで、必要な情報はネットの先にちゃんとあるのだという肯定的な意見。
もう一つは、「本は総合メディア。知情意が中にある」とネット上の情報には無い長所を指摘しています。
本には知識だけでなく、情や意欲が込められている、と。
確かに、一冊の本になるには作者や編集者の情熱、意欲というものが世界観として現れてきます。
立花隆さんは、私の20代に大きな影響を与えた人でした。当時、立花さんはゼミを開講していて残念ながら私は一年遅れで直接教わることはできませんでしたが(そもそも学校も違うけれど)、レジュメや講義録を共有してもらうことで土台をつくる大切なことを教わってものです。
私の中に今でも残るメッセージは、「調べて書き発信せよ」と「読書による美学の構築」です。読書はノンフィクションでもフィクションでも登場人物の人生を通し、情と意を追体験するのに向いており、大人になって大事な判断を迫られた時に自分が何を善しとするか、自分の美学をつくっていくのに向いている、と学生に語りかけていました。
知識を得るだけなら、ネットの情報でもいいし、他に変わるものはあるかもしれません。でも一冊の本と対話するというのは、そういう知情意が融合しているこそ思考の間とともに大切な体験なのでしょうね。
私も、以前の比べてかなりネット上のニュースや情報に触れる時間が増え、読書量や映画を見る時間が減っています。それは、著者と向き合うというより、情報を点で理解して流していく情報の取り方が増えていることを意味しています。僕も、スマホやネットはどんどん使えばいいと思っています。ただ、「向き合って考える」時間だけは無くさないように意識的に改めたいと思いました。いい番組でした。
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