はじめてのプロジェクトレビュー

公開日: : 最終更新日:2014/07/31 ロンドン芸大 / Uni Arts London, 写真学び / Photography study

Photo:’Curiosity’ at Waterloo Bridge

金曜日の朝からはじめての写真課題の講評会がありました。今のコースは基礎コースだから人数は多め。4クラスあってそれぞれ25人程度いる。 金曜日だけは一同が会して、レビューや歴史、コンテクストの勉強をします。そういうときは、シアタールームという劇場のようになっている100人ほど入れる部屋を使います。

最初に全員分のをスライドショーで見てから、ひとつひとつが講評されていきます。 3時間くらい続きました。薄暗くなった部屋の中で、多くの目がプロジェクターから明るく映し出される写真と名前、そして講評者を見つめています。結構な緊張感がそこにはあります。

いやーかなり辛口ですが面白いです。メンバーはチューター3人。もっとも、チューターはプロとして仕事をしている人なので、商業アートに関わっている人たちです。

物事を相手に一枚で伝えるということは簡単ではないが、やっぱり興味深い。 核となる主題が何なのか、 それが問われるのはビジネスで行なっていたプレゼンと同じかと思いました。 主題の設定をどれだけしっかりしているかは大切なことです。 よくビジネスでも、パワーポイントを作るときには、一つのチャートにはひとつのメッセージと言われていましたが、それに通じるところがあります。

ただし、ビジネスのプレゼンと違うのは、そこに一切の口頭説明を加えることができないことです。 コースメートたちの写真を見ていて気がついたことは、よい写真からは物語が浮かんでくるということです。想像をふくらませてくれる関係性とスペースが十分に含まれている。 一方そこからは、一人ひとりの対象への思索の深さ浅さが見えて、ちょっと怖くもありました。

今、個人研究として写真の歴史と文脈の本にもあたっています。 写真という表現方法が現代において、その文字通り真実を写すものなのかは疑問だと思います。いくらでも補正、修正ができますし、写された対象の周辺は写っていません。そこは倫理とも絡んでくるところなので、まだ学習中ではっきり言い切ることはできませんが。 それがフィクションであれ、写真を見た人がそこからその登場人物や風景に対して、物語を持つことができたら素敵だなあと思って、いくつかの写真を見ていました。

今回のテーマは、テムズ川でした。 僕は、このテーマをもらったときに、やっぱりそこに長く関わって生活している人たちにとってどんな場所なのか、ということと、新しい生活を始めた自分の感情を重ねてみてみたいと考えました。

今の僕は、前へ進むことしかありません。後ろにはもう何もないのです。 漠然とした将来に対する不安を抱えていた在職最後に比べれば、多くの可能性を感じる生活です。 しかも、身体の調子は日に日によくなり、以前のような頭痛に悩まされる日も数えるほどになりました。

安定、不安定、それはおそらく経済的なことを指すのでしょうが、中期的に見れば、今のコンディションを保ちながら進んでいけば、むしろ前よりよいということだってあるかもしれません。 クオリティ・オブ・ライフという点では、かなりの満足度もあります。

さて自身の最初の課題ですが、結果としては、その意思はある程度は伝わったような気はします。 ただし、フィードバックは、テクニカルな部分をもっと改善してくださいとのことでした。 主題をもっと強調するような露出をコントロースすべきだと。 ものすごい早口でそんな講評がされました。講評は念のために録音もしておきました。

講評には、This isn’t interesting at all…(まったく面白くない)というコメントもかなりありました。 写真というのは、シャッターさえきれば誰でも簡単に撮れます。 ある学生がテムズの観光スポットを橋から撮ったものを提出して講師陣たちに、なぜこのシーンを撮ったのかを聞かれました。 個人的な思い入れがある場所やストーリーがあるのでしょうか?と。

講師が言いたかったのは、それを伝わるように写真を撮ってくださいということでした。ポストカードならそれを買えばいい、と。 記録的なメモのような写真とメッセージのこもった写真があるだろうという印象を持ちました。 確かに講師たちの評価は手厳しいものではありました。 でも、そこに愛情は感じました。 「おそらく○○という意図だと思います。ポテンシャルとしては悪くない。ただし、この写真ではそれは成功していないと私は思う」という話し方をされていました。

一日が終わって帰るとき、40代のギリシャ人のインテリアコンサルをしてきたというMさんが、「おれはお前の写真好きだぞ」と言いにきてくれました。反省点はたくさんありますが、そういうのってうれしいですね。 これから自分を含め、コースメイトたちの作品が楽しみです。

次は、ストリートファッションです。これは難題かも。

この記事へのコメント

1. Posted by Is   2011年10月02日 19:31
いつも、楽しく読ませてもらってます。
(勝手に留学気分を味わらせてもらってます)

講評会!…自分は建築のそれでだったけど、
思い出すな~。前に出て、みんなの注目浴びて…、緊張感と、それが適度な快感になってきて…。

「ポストカードならそれを買えばいい」ってのがウケた。

写真のことは,自分は全然わからないけど、この「留学記」を読み進めるうちに、「視点」をいただいてる気がします。

楽しそうなのが,何より!

2. Posted by Shin   2011年10月03日 08:51
>Isくん

コメントありがとう!

すぐれた作家は、一文から短編小説を組み立てていくといいます。

写真もそれと似ているのかも、という印象を持ちました。

そこから何が描き出せるか、出したくなるか。

ポストカードならそれを買えばいいというのは、僕もビックベンを行き来しているときにいつも思っていました。

どうして、グーグルをちょちょいと検索すれば出てくる有名な景色をそれぞれがキャプチャーしようとしているのか。
もちろん、それぞれの眼差しの記念としてそこを残すというのは当然の行動だとはわかってますけどね。

写真って物事への光のあて方、視点の定め方だと思って、当面は勉強して実践してみます。

これからそんな考えも変化していくかもしれません。見守っていてください。

3. Posted by Eri   2011年10月07日 02:40
しんさん。
素敵な日々をお過ごしですね。
なんか、サラリーマン生活をしていると、このように自分自身がとことん試されることって実はあまりない気がして。
組織や出身が関係なく、自分自身が作品を通じてexposureされる…厳しさと楽しさが混在するのだろうなと思います(幸子さんは日々こんな感じなのだろうなぁ)。
しんさんのブログを読んで、「絵」と「写真」の違いはなんだろうという疑問が…
テーマがあり、物語を喚起するという意味では同じかと。
写真、楽しみにしています。
えり。
4. Posted by Shin   2011年10月07日 08:22
Eriさん

コメントありがとう。
確かに、サラリーマン時代はチームの産物が多かったので、責任はある程度分散されていた気がします。

絵と写真、絵はないものも描き出すことができる点が今のところ僕がすごいと思う点です。

ちなみに、先日、National Portrait Galleryに行って来ました。カメラ登場前までは、すべて絵です。
でも、写真に負けず劣らぬエネルギーを感じました。
写真とちょっと違う点は、為政者の影響が絵の中に存在しているということでしょうね。

南スーダンでのお仕事もお疲れ様でした。
リンク先にある、「あなたには夢がある」はすてきですね。いろんな芸術への関わり方があると思うけど、その過程で貧困から立ち上がっていく力が生まれているとすれば、それもひとつの表現するということの力でしょうね。

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