看板から読み取れる社会の意識。東京の戸越公園。

公開日: : 最終更新日:2015/03/31 リサーチの方法 / research method

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看板を読み取る

町や人が共有している習慣や意識を調べるのに「看板を読み取る」といったものがあります。

これは、デザインリサーチの方法と実践について記された「サイレント・ニーズ」(ヤン・チップチェイス他)に記されている着眼点の一つです。

「看板や標識はどこにでもあるものだが、命にかかわるような場合でもなければ無視されることが多い。だが、都市の環境を理解しようとするどん欲な観察者が標識そのものとそれがそこに置かれた背景を理解すれば、社会的なふるまいと公共の場での価値観のせめぎ合いについて多くを知ることができる」(Loc 2237, Kindle)

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たとえば、この写真は、インドのニューデリーでよく見かけた看板で、「いつでもあなたとともに、あなたのために、デリー警察」という標識です。こういうテーマがあるということは、現状は逆なのだな、とこの看板から推測することができます。実際インドの新聞では警察の汚職が多いことからもわかります。当たり前のことが書かれている裏にある事情が透けて見えるのではないでしょうか。

 看板だらけの戸越公園

では、実際にこの観察を東京でもしてみることにしました。

戸越公園の看板は、品川区によるものですので、下記のような政策決定者の志向が反映されている可能性があります。

「地元当局による公的な「しろ」「するな」の標識は人々の行動と、より広い世間、もしくは最低でもその標識を義務づけた政策決定者の志向とが生み出している摩擦を反映していることが多い」(「サイレントニーズ」Loc 2243)

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戸越公園の前をまえに自転車で通りかかって立派な門構えから、一度中を散歩してみたいと思っていました。

この公園は、江戸時代には細川家の下屋敷で、その後三井財閥が購入し、品川区に寄付されたものです。立派な門はその当時の面影を残していますし、中は立派な回遊庭園になっています。

ところが、入り口から妙に看板が多く、これは格好の観察対象だと考えました。

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自分がしばらく日本を離れていたことから感じられる文化差だろうか、と少し思ったのですが、中を順番に回っていくともう看板ばかりですのでやはり多いのだと思います。ちなみに、今回の観察はいい悪いを問うものではないことをはじめに述べておきたいと思います。ただ、居心地についてはいろいろ気がつくことがありました。

看板数を数えてみました。だいたい10分程度で一周できる規模の公園です(18,255m²)。

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70は確かに多いと感じる数です。

公園を歩き始めるとやっぱり文字情報は強いので、どこを見ていても目に入ります。風景にキャプションが付いているような印象。

各メッセージのタイプは、品川区の憲章や公園の由来などがいくつかある以外は、すべて「〜すべからず」系のものです。

代表的なものは、犬入場禁止、猫やハトにご飯をあげない、危険だから入らない、魚を捕らない、サッカーをしない、火気を使わない、自転車を入れないなど。全て日本語で書かれていした。

ヤン氏によれば、「「するな」の標識はサブカルチャー、カウンターカルチャー的にも貴重な示唆をあたえてくれる宝石」とのこと。

 

私の気づきとしては、

  • 管理体制が厳格:中学生のときの生徒手帳のような基本「〜しない」というものの羅列を思い出した。行政担当者が細かいのかも。
  • 近い過去に何か問題があったのかもしれない:利用者のマナーが一時かなり悪化したのかもしれない。
  • 日本人は既にマナーよく公園を使っていると思っていたが、実際は問題が多いのでは。
  • 由緒正しき公園なので要求水準が高い:三井側から譲渡されたときにきちんと使うという約束事があったとか。
  • 看板の種類はパーマネントのものと、ステ看板のような紙とボードの手作り版がある。:ステ看板がここ数年で急増している印象。
  • 文字情報は強いので、景色を楽しむ余地を侵害することがある。
  • 犬の看板が特に多く、植物を荒らしたりや糞やブラッシングで衛生面での問題が多発している可能性がある。
  • 池の仲間で看板があるから、高価な錦鯉を採って売る業者が実際にいたのでは。
  • 全て〜するな系で「いつもきれいにしていただきありがとうございます」といった褒めるタイプ看板はない。強い行政力の表れか?
  • 日本語オンリーなので、この公園を利用する外国人はあまり多くない。

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ただ、3年ほど前(2012年当時)の写真をネットで検索すると、少なくとも入り口普及に看板はほとんど見られません。ということは、看板が急増したのはここ数年のできごとなのかもしれません。

個人的な感想としては、吉田兼好がかつて書いたたくさんなったみかんの木のまわりに柵ができていてがっかりしたという随筆のように、せっかくの庭園が過剰な看板によって趣を失っているとは感じました。

一方で、日本人はもともときれいに公共の場を使う傾向があると思うし、特にこの場所は住宅地の中にあって観光客は殆ど来ない場所にも関わらず、ここまでの看板が多いのは興味深いです。

今回は、看板の内容が禁止伝達が多かったということと、その数の多さから管理者側からの強いプレッシャーが存在する、一方で紙と板で手作りした看板も多くここ数年以内にユーザーの特にペット関連のマナーが悪化してのかもしれないという仮説も持ちました。

看板読みやカウント、なかなか面白いです。また別の場所でもやってみたいと思います。

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