国立デザイン大学院(NID)卒の若手デザイナーの今。フラット化した世界におけるプロフェッショナルな働き方。
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最終更新日:2014/12/17
リサーチ方法 / research method, 店・会社 / store, company, 教育 / education
インド南部の大都市バンガロールで、グラフィックデザイナーとして働くMamataさん(写真左端の女性)に会いました。
彼女は、現在あの椅子で有名なハーマンミラー社でユニークな働き方をしています。
オフィスに伺って、卒業後デザイナーとしての働き方についてお話を聴くことができました。Mamataさんは、pearで一緒に活動している鬼頭が、2008年にはじめて国立デザイン大学院(NID)に交換留学生になったときに出会った友人で、三日間ほぼ密着で生活や仕事についての話をする貴重な機会となりました。
Mamataさんは、インド南西部のゴアの出身の20代後半で、ゴアの美術学校を主席卒業の後NIDのグラフィックデザインコースに入学し、2010年に修了。
その後、インドの財閥Tataグループのデザイン会社Tata Elxsiに勤務しました。2014年に入って転職し、現在アメリカに本社を置くハーマンミラー社でブランドデザインのチームに所属して働いているのです。
オフィスはインド、チームはアメリカ
Mamataさんは、現在通勤はインドのバンガロール市内で、実際のチームや上司はアメリカのミシガン州にいてテレビ電話会議を通して働いています。
立派なオフィスがインドにありますが、こちらは主にセールスとマーケティング、物流の部署があり、デザイナーは彼女だけです。インドとミシガンは10時間30分の時差がありますから、インド国内にいながら主に午後から仕事が始まることが多くなっています。
彼女を除く他のメンバーは全員アメリカにいるわけですから、オフィスの中では一人だけユニークな存在です。
なんとなく、働きづらくないだろうかと思ったものですが、そうなりにくい能力や環境がそこにはありました。
箇条書きにまとめると、3つの要素がベースにあると思います。
- ビジュアルコミュニケーションのメリット
- 豊かな英語力
- オフィス環境:仕事は違えど若手スタッフが何人もいて、かつオープンスペース有り
- 好待遇
ポートフォリオによって見える化されている実績
彼女は、現在の職場で半年ほどのキャリアですが、既にブランド戦略に関わるデザインをはじめ、ロゴのデザインなどを担当していました。パソコン上に映し出されるデザインのアウトプットを見ながら楽しそうに語ってくれるのでこちらもわくわくします。
デザインというのは、その人のセンスや仕事に対する情熱、きっちりさなどが一目で伝わってきます。この感覚は、文字や数字ベースで実績を見せがちなビジネスパーソンには無い世界観だと思いました。
彼女の過去3年のTataでの実績も気になりました。
それらは、全14ページに渡る公私に渡る実績や取り組みが見えるようにきれいにレイアウトされたポートフォリオ(作品集)にまとめられています。
私は、このポートフォリオを見てすぐに、Mamataさんの色、レイアウト、スペース、フォント、プロダクトデザイン、ブランド理解、デザイン思考などひとことでいえば、世界観が一気に伝わってきました。
Mamataさんがすばらしいのは、仕事として行ったものに加え、プライベートでも様々な実験を行って、その中からおもしろいものもポートフォリオとして掲載しているところです。エコな植木鉢、オーガニック防水インク、歴史ツアーの再デザインなどなど。それによって生活の中で、何に気づき、何を大切にしているのか、パーソナルな部分も非常にわかりやすいのです。
デザイナーやアーティストは、ポートフォリオを持つものですが、Mamataさんのものはこれまで見た中でもっとも自分にインパクトを残しました。このポートフォリオとレジュメを見せてもらったとき、感動して自分もこういうのを持ちたいと強く思ったほどです。
ちなみに、彼女は、このポートフォリオとは別に、テキストで自分の経歴を説明するいわゆる履歴書も自分でデザインして持っています。そちらも、要点が絞られてシンプルなのに、フォントやスペースの取り方にデザインの力を感じるすてきなものです。
よくデザインというのは、問題解決とアートとサイエンスが融合したものだと思ったりしますが、そのレジュメは必要なことが十分に伝わりかつ美しいものでした。
専門+英語の強さ。フラット化した社会で一歩リードするには。
Mamataさんは、その専門性に加え、抽象度の高いデザインの概念もわかりやすい流暢な英語で説明することができます。
これは、インドの教育が私立なら小中、公立でも都市部なら高校から全て英語で教育が行われることがあります。そのため、どんな分野を学んでいようが、英語は基礎としてあるのです。これは、デザインやITの世界で世界と繋がって仕事をして行くには大きなアドバンテージです。もっとも、それは、イギリスによる統治や多言語社会という複雑な事情が歴史にはありますが、既にフラット化した社会では、大きな強みになっています。
もっとも、英語ができる人はインドには山ほどいるので、そこで一歩抜きん出るのは、専門性とよりハイレベルな英語力(発音、文法力、ロジック)です。
彼女の場合は、デザイン思考+問題解決ロジカル思考+クラフト技能+コミュニケーション力+英語といったスキルが高いという印象を受けました。そのため、国内だけでなくUKやUSの仕事も受けて仕事をしてきました。
日本では、英語公用化とか社内用語統一というと、かなり抵抗が起きるのは、日本語と英語の言語的隔たりが大きくて学ぶのが大変だからでしょう。しかし、インドでは、既にそれがスタンダードです。科学者、ビジネスパーソン、文系、理系、アート、デザイン系とみんな英語で学んでいます。
家族の結びつきの強さが強いことやVISAの問題もあり、海外でずっと働くというのを個人で決めてすぐ移動しづらいかもしれません。しかし、学生やこういった活躍する卒業生に出会うとインドにはグローバルで活躍できる人材の宝庫であるような気がします。
あと、これはまた改めて書きたいと思いますが、理数系+デザインorアートという人材が結構います。このあたりのハイブリッドな思考の持ち主たちもインドのエリート層のおもしろいところです。
最後に、彼女が暮らすガンバロールの町並みをご紹介します。
高地にあることで涼しくいいところで、今のところインドで住みたいところベスト1です。バンガロールには欧米のIT企業や日本だとトヨタが拠点をおいているのもわかる気がしました。
参考リンク
the volvoikar stories :Mamataさんのブログ
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