一ヶ月Rs2,630(4,500円)で暮らせますか?インド支出調査から
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統計 / statistics
インド・グジャラート州に暮らして、もうすぐ3ヶ月が経とうとしています。そろそろ、この地での物価が感覚的にわかってきました。この物価水準には、かなり大きな地域差があるようです。
特に、ムンバイで訪れたスターバックスやカフェ・バー、ローカルのティーハウス、デリーの高級ショッピングモール、アーメダバードの家族用アパートの家賃以上の月額利用料のコワーキングオフィスを見ると、それまで旅行者として抱いていたインドのイメージが大きく変わりました。インドの暮らしの水準や物価の感覚には、複数のスタンダードがあることを実感しています。
何にいくら使っているのか?
そういった感覚を確かめるには、家計調査が役立ちます。インド政府は、収入ではなくいくら支出したかについて継続して調査し公開しいます。
今回は、その公開データを紐解いて、自分が感じている物価感を客観データと比較して見たいと思います。以後出てくるデータは、全てKey Indicators of Household Consumer Expenditure in India, NSS 68回(2011〜2012年)の結果を用いています。
最新の月間支出データによると、都市部Rs2,630、農村部Rs1,430とのことです。これは日本円でいえば、都市部で4,470円、農村部2,430円ということになります(1ルピー1.7円換算)。ちなみに政府統計の定義では、都市部を人口50,000人以上としています。
この数字を見た時の第一印象は、「え、これでほんとに一ヶ月生活できるの?」でした。
何の保証もないセルフ駐在員ですので、暮らしはかなり現地に近い気分でいましたが、どうやらそれは間違いのようです。
政府統計の内訳を見てみます。着色部分は、格差の大きい部分です。金額の差と金額は小さくても違いの倍率が大きなものはオレンジ色に着色してあります。
この表からわかることを箇条書きでまとめてみました。
【農村部】前提としてあまりお金を使わなくても成り立つ生活。
- 家賃はほとんどかかっていない
- 食費が安い
- 税金がないに等しい
【都市部】住むにも移動するにもお金がかかる生活。食べ物も高め。
- 家賃がかかる(でも想像より低め)
- 食費が高つく
- 教育費が農村よりかかる
- 通信費を使う機会が多い
- 税金が余分にかかる(贅沢税もある)
このデータを見る限り、概ね都市部の傾向である家賃や食費が高くなっていますが、娯楽費が都市部ですら思ったより低いのは意外でした。
私の実感としては、グジャラート州は禁酒でベジタリアン中心で、ほんとに娯楽が少ない印象がありますが、他でもそれほど変わらないのでしょう。
インドの娯楽というと、クリケット観戦や映画館などが思い浮かびます。また、ムンバイで行ったカフェ・バーの華やかさには驚かされましたが、このようなところに来るのはほとんど外国人か外資系勤務の人なんでしょう。カクテル一杯でRs500以上です。かつて私が駐在していた上海のことを考えると、インドの環境は修行僧並みに厳しい環境だと思います。
支出内訳を割合で見てみると、農村部では食費の占める割合が大きいことがわかります。
結構切り詰めた生活のはずが・・・。それでも平均的な暮らしは見えていない。
なるほど、内訳については概ね理解と納得ができました。
しかし、総額の支出平均を見ても、今一納得感がありません。なぜなら、都市部でRs2,630で生活できるとはとても思えないからです。自分としては、これまでの人生の中ではかなり支出の少ない生活をしているつもりです。(東京、ロンドン、上海が基準)
たとえば、先ほど私が少し書いたとおり、私が暮らしているガンディナガルやアーメダバードでオートリキシャーに乗るとします。2キロ先の最寄りInfocityまで、片道Rs20です。その先でパンや牛乳、野菜などの食材などを一週間分買ってRs500です。たまには冷房の効いたレストランで外食となればやはりひとりRs250くらいはかかるでしょうか。猫のトイレ用の砂は輸入物をAmazon Indiaで一ヶ月分注文します。10KGでRs900です。
私が暮らしている大学構内の外国人職員の住まい(1ベッドルーム、リビング、ダイニング、キッチン、バス・トイレ付、家具、エアコン付)は、家賃Rs10,000でまわりの大学の教員や学生のインド人からは「高すぎ!」という反応です。確かに、相場よりは高いかもしれません。構内を出れば、エアコンや家具はないですが、3ベッドルームがこれより安くRs8,000前後で借りられます。それでも、企業駐在の方の家に比べたら、10分の1くらいだと思います。
しかし、一旦統計値を眺めて、これまで現地で見てきた風景を回想すれば、すでに大学施設やその周辺の環境にいるだけで、大いなるバイアスの中にいるのだということに気がつきます。多くの学生がデジタル一眼レフカメラを持ち、Macを持っている大学生たちが集う場所は、すでに激しく平均を超えています。だいたい年間80万円近い学費(寮・食費込)を支払っているご子息たちのライフスタイルは、現地からみたら別世界そのものです。
アーメダバードにしても、高級マンションが立ち並ぶ間の空き地に多くのテント暮らしの一家がたくさんいます。もちろん家賃は0でしょう。軒先で、女性が焚き火を起こして料理をしている様子もよく見ます。先日、知り合いのオートリキシャーのドライバーに連れて行ってもらった彼の家は、曰く「スラム街」で、確かに水道も限られた場所にしかなく共同で使っている地域でした。同じ都市部とはいえ、その暮らし用は多岐にわたっているのです。
平均を見ることにあまり意味が無いのでは?都市や世帯による格差について。
格差が激しい場合、平均値を見るのはあまり適切ではありません。そこで、実態を調べるために同じ統計を使って州別、かつ支出額別グループで見てみることにしました。
インドはあまりに大きいので、比較対象としてデリー、ムンバイを含むマハラシュトラ州、私が今住むグジャラート州の三つを取り上げてみることにしました。あと、農村と都市を同じにして比較するとまた実態と異なる数字が出てくるので、データは都市部だけにしてあります。
半数の人たちが到達している支出額(50%)のポイントに点線でマーキングしました。ここが平均的な額(中央値)です。相対的に裕福な層が多いかを知るには、ここから上の割合が気になるところです。やはりデリーとマハラシュトラ州は全体と比べ、裕福な層が多いのは確かです。私のいるグジャラート州は、トップ10に入る大都市アーメダバードがあるためインド全体よりは高い値になっています。
ただしこのデータを見る限り、デリーもマハラシュトラ州も90%前後がRs6,000(10,200円)以内の支出に収まっています。
このグラフを見たとき、思ったよりばらつきが少ないと思いました。最上部オレンジ色の部分の5%前後の人々はRs6,015以上の上位層ですが、この層でも平均するとRs10,281(約17,000円)です。この中には、天井知らずの支出をしている世帯もいるでしょうが、この統計ではそこまで詳しくはわかりません。先日、デリーの高級モールで売っているルイヴィトンやヴォッティガのカバン(20〜30万円相当)を購入する層は、こんな支出レベルとは到底思えません。統計データの隅の方に外れ値として存在しているはずです。
その部分を保管する情報がTHE WALL STREET JOURNAL, 2014年5月30日の記事にありました。「インドで100万ドル以上(1億円)の資産を保有する富裕層の数は2013年に24万8000人」とあります。この数字は、人口12億からすれば0.02%ですが、1%未満でこのボリュームですし、これから伸びていくことが予測されています。(ちなみに、日本は360万人で世界第二位)富裕層についてのこの数字はかなり納得感があります。実際は、そこまでの資産がなくとも高級外車でホテルのようなモールにやってきて、高級ブランドを購入できる層はいるでしょうから、人口全体から見たら少ない規模でも、他国から見たら十分大勢います。
その一方で、Rs1,000以下で生活している世帯も10%以上います。自給自足が難しい都市部でどうやって暮らしているのでしょうか。高級住宅街の間にある荒れ地に暮らすテント生活の人々が思い浮かびました。
今回の統計分布を見て、改めて普段暮らしている環境がすでに特殊な層が集う場所で、その中で更に外国人としてズレた物価感覚で暮らしていることを実感しました。それと同時に、インドの統計分布の見えにくい片隅に存在している最低資産1億円以上の富裕層のスーパーリッチ層やその予備軍が一定数確実に暮らしていることも見えてきました。
改めて、インドのような多様で複雑な社会では、日常生活で目にしている部分や自分が思っている「普通」という立場ではなく、客観的に全体を眺めてみるのも大切だと思いました。
写真で映し出していくのと同時に、全体の様子も交えて今後も紹介していきます。
参考データ
Key Indicators of Household Consumer Expenditure in India, NSS 68回(2011〜2012年)
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